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❄️雪組『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』『FROZEN HOLIDAY』

東京宝塚劇場公演を1月3日に観劇した際の所感まとめ。観劇当日に書いたものから、若干加筆しています。

『ボイルド・ドイル・オンザ・トイル・トレイル』

〜物語の持つ多面性〜

 劇的な展開はなくとも当て書きの利を活かした脚本で、各演者の個性による自然な展開があった。花組巡礼の年(ボイルド〜と同じく生田大和作/演出)でも登場人物が「物語の中にいる」場面があったが、今作でも現実世界と物語の非現実世界が並行して存在する。

 特筆すべきは、2作とも現実世界と非現実世界が別々ではなく地続きのもの、ひいては物語の方が大きな枠組みでその中に現実があるという捉え方であること。そのような捉え方は、客席(現実)と舞台上(非現実)の境界もまた曖昧なものであるということの表明か。物語は消費の対象ではなく、誰にとっても想像・創造の対象であること。そして物語は人を喜ばせるだけでないということ。時にはアーサー(彩風咲奈)を困らせるように人々を翻弄し、時にはルイーザ(夢白あや)を病に導いたように人々を傷つける可能性を持ち合わせている。そんな物語の性質を改めて実感させられる「物語」であった。

 登場人物たちがアーサーを煽るようにして囲む場面など、類似した場面が複数あったことから場面ごとの緩急があまりなかったこととは悔やまれるが、統一感のある装置(國包洋子)と衣装(加藤真美)によってまとまりのある舞台になっていた。

 特に目に留まった生徒さんたちは以下の通り。

華世京(アーサー・バルフォア役)
今作の新公主演ともあって、かなり仕上げてきたのではないかと感じられた。シルクハットの中に見え隠れする長髪が似合う。政治家としての存在感を持たせつつ、心霊現象を信じるお茶目さを感じさせる演技。伸びのある歌声。そして、何より軽やかなダンスが眼福。

野々花ひまり(ロティ・ドイル役)
心霊現象研究協会のメンバーとアーサーの妹の2役を好演。心霊現象〜の場面では、メインの裏で同じく協会メンバーの華純沙那と細かい演技を続けていたのが印象的。その後、アーサーの妹として、こちらも華純とともにコミカルな場面からシリアスな場面へと一気に切り替えるような力のある演技と歌唱を披露。聴き取りやすく、引き込まれた。

 

「FROZEN HOLIDAY」

〜静と動で見せる雪組100年の歴史〜

 99周年を迎える年末のホテルを舞台に、100周年へのカウントダウンが始まる。冒頭、映像を使った大胆な演出によってショーの世界へと誘われる。オリジナル曲よりも耳馴染みのあるクリスマスソングが多く、初見でも入りやすい。途中雪組100周年の歩み(戦争、流行病等による公演中止など)を映像で紹介。その後、それらを歌詞に盛り込んだ「SNOW FLOWER WILL BROOM」の歌唱がある。説明的になりすぎないよう、シンプルにまとめた印象があった。
 全体的に少人数の場面が少なく、下級生から上級生まで全員が一斉にパフォーマンスする場面が多く賑やかな祝福の雰囲気を作り出していた。だからこそ、「蛍の光」にのせた和希そらサヨナラショー的演出と終盤のデュエットダンスが際立つ。特に3組によるデュエットダンスが始まると劇場全体が一気に心地よい静寂に包まれ、衣擦れの音も聴こえるような緊張感があった。彩風咲奈退団前の最後のショーとしても一見に値する作品であったと思う。